- 気軽に始めたダイエットが、、、やめられなくなってしまった。毎日、食べる物にこだわりがあってカロリーが高い食品には手をつけられない。毎日毎日摂取カロリーを気にし、体重計から目を離せない。体重が減らなければ自分に負けた気がする。体重は減り続け家族は心配する。もう立っていれないほどフラフラな状態。・・・・・体重や見かけにこだわり、自分をひたすら飢餓状態に追い込んでいく、なぜそのような状態になっていくのでしょうか? いろんなストレスが本人たちを苦しめます。会社でのストレス、夫婦問題、親子関係、学校でのいじめ、恋愛関係などのさまざまなストレスが関与していますが、根底にあるのは人間関係の問題でないかと思います。多くの専門家は食事に関する栄養指導だったっり、食事の量や内容の見直しをまず行うところが多いようですが、彼女たちは基本的には”いい子”なので きちんと指導を受けますが、なかなか指導の内容に沿って守れるようにはなりません。密かなる抵抗を続けていくのです。
- 拒食症の人は、太ることを恐れ体重にこだわり、家族の説得も効果なくやせていきます。ある生命を維持する限界体重より低下すると全身状態が急速に悪化し、何回も救急車で病院に運ばれていき、内科的に半ば強制的に栄養を詰め込まれる結果となります。本当はこのような状態にならないように早く治療を開始していかなければなりません。
- 拒食症の飢餓状態が続くと、突然、過食症に変わることがあります。通常では考えられないほどの量を食べ、食べた事の罪悪感からすべて吐きもどすか、下剤の乱用が起きます。拒食からむちゃ食いへ、そして下剤の乱用と、食事に関してコントロールができなくなります。やがて、下剤の乱用だけではおさまらず、リストカットやアルコール依存などの問題も加わり、度重なる食費で経済的に苦しくなることがあります。
- 摂食障害も悪化すれば、拒食と過食、むちゃ食いと食べ吐き、下剤の乱用の他に、アルコールやリストカット、などの問題がありますが、中でも最も問題となってくるのが万引き(病的窃盗)です。万引きする商品のほとんどは食べ物ですが、やがてエスカレートし、常習となって警察に捕まることもたびたびあります。ほしい商品があるから取るのではなく、取った商品の成功体験が忘れられず万引きをやめられなくなっていきます。このように多重嗜癖の状態となると治療が困難になっていきます。多重嗜癖では、多くは共依存関係にある家族問題が根底にあるため、まずは依存関係から脱出しなければなりません。
- 回復のステップについて、まずは摂食障害(拒食、過食)が自分の力ではどうしようもないことを最初に認めなければなりません。最初は家族に隠れて、拒食(ダイエット)するのですが、なぜかそのダイエットが止まらなくなってしまい、自分ではコントロールができなくなります。まずはそして生活ができなくなってしまい悪循環に陥ってしまいます。このように陥ってしまう根底には本人と取り巻く人間関係が関与していることに気づいていなければなりません。それは自分が生まれた家族問題から始まり、現在を取り巻く家族まで自分がどのくらい愛されているのか、どのくらい大切にされてきたのか愛情を常に確かめないと収まりがつかない自分がいるのを認めていかなければなりません。心配する家族と拒食症が止まらない本人との間に終わりなき沈黙なる戦いが続き、お互いのなじりあいが繰り返されていきます。永遠に続く愛情飢餓が根底にあると認めつつも、いくら求めても叶えることができないとの受け入れができるかどうかですが・・・長い時間がかかります。
- 経験上、根底に愛着問題が隠されています。母親に孤独感や自信のなさなどを自己表現することが苦手な娘と表裏一体で過干渉な母親との間に繰り広げられる終わりなき戦いなのです。両者の自己愛が強ければ強いほど摂食の問題は激しく出てきます。それぞれの自己愛がお互いにわかり合え、個々にコントロール出来るようになれば両者の戦いは消え摂食問題もいつの間にか消失します。摂食そのものを治療するのではなくて、家族関係を修復すれば 摂食の問題はいつのまにか消えていくのです。これは過去の家族問題の含めてすべて受け入れが必要なのです。
- 摂食障害そのものを治療しても困難な場合が多く、緊急時を除き、母娘関係をどうしても介入しなければ根治が難しいことがよくあります。残念ことに母親が娘の養育方針に指摘を受けると怒りが我慢できず、主治医と関係性をうまく築けず病院を転々とする場合もあります。大事なのは母親自身も長い間孤独感に耐え、甘えることができなかった苦しみを理解してあげなければなりません。母親の内面を受け入れ、感情が安定してくると娘にも変化が現れていきます。このことから母親のみで病院受診をすることは大変、意義があります。娘はひたすら病院を拒み、母親だけが病院を受診することも多くありますが、私はそれで十分と思います。大事なのは母親自身の苦しみからスタートすることが摂食障害を克服する上で大変重要です。
- 娘が摂食障害になったのは母親の育て方が悪かったのでしょうかとよく質問されます。もうお分かりと思いますが、姉妹でも妹は全く問題がなく、姉だけが摂食障害に陥ったケースをよく見ます。では養育方法が同じであるにもかかわらず、なぜ姉は発症せず妹だけが摂食障害になってしまうのでしょうか? この原因に関して、本人がもともと感情表現が苦手で状況説明もうまくできず、こだわりが強く、頑固者で融通がきかないなどの特徴が見受けられます。これはコミュニケーション障害かあるいは発達障害の素因があり、ストレスを自分自身の力でうまく処理できないのも発症原因の1つではないかと思われています。母親から見ると娘は無言で頑なに食事を拒否し、体重を減らす事に人一倍強い執着があり、ひたすら食事の問題にこだわり続け、全く融通がきかないこともやや自閉スペクトラム傾向の特徴によく当てはまります。 また母親からすると 小学校の時はとても育てやすく、摂食の問題を引き出してから すごく養育しにくいと訴える母親はとても多いのです。 この点については発達障害のコーナーに詳しく述べています。 つまり摂食障害の娘の対応の方法は普通にしていたのでは無理で、母親は適した対応方法や養育方法を学んでいくことが重要です。これは私の経験上ですが、軽度の病的レベルでない自閉スペクトラム障害に愛着の問題が絡んでいるケースが大部分を占めます。
- 治療の過程で、母親は食べる食べないの問題に執着せず、本人の気持ちに寄り添うことが大事です。それは食べなくて弱っていく自分を認めてほしいとの訴えなのです。根底に ”愛してほしい” ”かまってほしい” ”大切にしてほしい” ”私を褒めてほしい ””頑張っている自分を認めてほしい”との思いがありますが、どんなに弱っても言いたくないのです。甘えたくても甘え方がわからない、そんな思いが心に眠っていますが、弱みを見せるのが大嫌いなので、無言のままなのです。
- 醜形恐怖(醜形妄想)による精神症状で摂食障害が起こることがあります。思春期に多く、学校や受験、家庭環境などのストレスで、精神病圏の病状(自分の顔が醜く感じる恐怖や妄想)が出現してきます。食べると太って醜くなる思い込み(一部妄想になっている)が強く、食べることの恐怖感で拒食になることがあります。このように精神病圏の病状による摂食障害では、不登校、生活水準の低下、興奮、自傷行為、被害妄想などがあり、他の摂食障害とは区別されます。この場合、摂食の問題は精神病圏の病状の2次的なものであるので、さきに精神病圏の病状を治療してなくすことを優先します。また本人が醜形妄想や醜形念慮にとらわれている自覚がほとんどないのが特徴です。また、母娘関係+本人の気質、発達の問題+精神病圏の病状がすべて混じっていることもあります。