線維筋痛症

  • 線維筋痛症について全身の耐え難い恒常的な疼痛(慢性的、持続的に休みなく続く広範囲の激しい疼痛)を主な症状として、全身の重度の疲労や種々の症状をともなう病気です。症状は季節的変動、日中変動があり、全身移行性で、痛みの場所も移動します。つねに全身を激痛が襲い、慢性疼痛の病状です。僅かな刺激(爪や髪への刺激、服のこすれ、音、光、温度・湿度の変化など)で激痛が走ることも特徴である。患者の90%以上が不眠症状をもち、薬剤に抵抗性の場合が多いようです。痛みと疲労感、不眠により、患者は日常生活が著しく困難になるのが特徴です。
  • 原因について一般に痛みというのは身体各部の炎症や刺激が痛覚受容器に伝わり、その刺激が脊髄を上行して、脳に入って行くというのが通常の疼痛の考え方ですが、、線維筋痛症の痛みはその経路ではなく中枢神経の中で感じる疼痛(Central Sensitization) 、これが線維筋痛症の疼痛であると考えられます。感覚受容器を通さない疼痛(Non-nociceptive pain)であります。この考えで行くと消炎鎮痛薬などの痛み止めが全く無効であることが理解できます。また、痛み刺激について日々増悪し、過敏性をおびてくることが特徴です。
  • PTSDとの関連性  いかなる全身の精密検査検査では異常が発見されないにもかかわらず、本人の症状が深刻であることから、戦争、災害、テロ、交通事故、多大なストレスなどにさらされた人に多く存在するPTSDが背景にある場合が多く、また幼少期の児童虐待経験・離婚・配偶者との死別・レイプ被害者も同様の苦痛と症状を訴えていることからPTSDとの因果関係は強まっており、精神科領域での治療が注目されています。つまりPTSDのフラッシュバック(侵入的回想)が忌々しい恐怖とともに受けた暴力の痛みを呼び起こして全身に激痛が走ることが十分にあり得るからです。
  • 小児性線維筋痛症について引きこもり・不登校児童にこの疾患が多く診断されたため、今後調査を進めていくと、小児性線維筋痛症患者の実数はさらに多いことが多いとわかっています。全身の精密検査が行われた後、異常なければ精神的なものと見なされ精神科へ紹介されてくるケースがほとんどです。しかし両親としては精神的なものとわかった瞬間、怠けている、仮病であると決めつけ、泣くじゃる子供に厳しい躾をしますが、痛みが慢性化し長く続く登校拒否や体の不調に気づいた親がはじめて慌てる場合も多く、ひどい場合、寝たきりや車いすになったりします。このような家庭環境に共通しているのが、機能不全家族です。肉体的および精神的虐待、ネグレクト、過干渉による束縛、夫婦仲が悪いなどの子供養育環境が決して良好と言えないものばかりです。ただし、両親がこの自分の家庭環境のことにふれてほしくない場合も多く、根本的な治療が困難なケースが多いのが現状です                      
  • 性格的素因との関連性  長年、線維筋痛症を診てきた患者の印象に、ある性格的特徴があるような気がします。ひとつは競争的、野心的、精力的、何事に対しても挑戦的で出世欲が強い、常に時間に追われている、攻撃的で敵意を抱きやすい、行動面では機敏、せっかち、多くの仕事に巻き込まれている。ところが自らストレスの多い生活を選び、ストレスに対しての自覚があまりないままに生活する傾向があります。おまけに完全主義で弱音を吐かず、賞賛されること目標とします。もうひとつはいわゆる「いい子」で自己犠牲的であり、周囲に気を遣い譲歩的、我慢強くて怒りなどの否定的な感情を表現せずに押し殺す、真面目で几帳面といった特徴を持っています。怒りや悲しみを表面に出すことを恐れ、周囲に迷惑をかけてはならないなどの思い込みやなんの根拠もない罪悪感が自分を支配しています。このような性格はいろんな体調不良を引き起こし、癌や成人病にもなりやすいことが研究でわかっています。
  • 当院での治療の取り組み当院は精神科であるので、直接痛みをとる治療(注射、代替療法、麻薬系薬物処方など)は一切できません。ここのクリニックの扉を開けて来院されるなら、自分の心理的な側面を根底から見直す勇気が必要です。自分の心のどこが痛みと反応しているのか、探っていかなければなりません。自分の性格と考え方など含めて、長い目で見ていかなければなりません。アメリカの線維筋痛症学会では認知行動療法がエビデンスAであることからも、いかに心理的な側面が重要でありことがわかります。ところが、患者さんのなかにはプライドが高く精神科へ行くことへ抵抗し、ひたすら痛みの原因を探るためにあちこち病院めぐりをして奮戦苦闘している患者さんが以外に多いのです。